幕末維新懐古談 (岩波文庫)

8歳の時に桜田門外の変が起きたそうです。幕末～明治～大正を生きた高村光雲。私は歴史の一証人としての実際に見聞きされたお話、当時の江戸の風俗、庶民の生活を知りたくて買ったのですが、職人の世界・奉公・仏師・木像彫刻の仕事の話が多いので、当初、なかなかページが進みませんでした。確かに、私はそうした内容には余り興味がありませんでしたが、とつとつとした安定した語り口、その当時に読者を誘う見事な調子に、だんだん興味が湧いてきたのが不思議。嬉々として読み進むようになりました。、それにしても見事な記憶力です。清廉、高潔なお人柄、そして職人気質、誠実そのもので、気負ったところも、自意識が過剰なところも一切ありません。心うたれました。たまたま、この本の前に、同時代に生きた（少し若いですが）中村天風の本を読みました。講演の口述なので、著作ではないという点で似ています。時代も。天風は、皇族を教えた、ロックフェラーが俺に20億を払うと言った、など「広報マン」としても優秀な方なので、そういう自意識・自尊心がこれでもかと散りばめられています。中村天風は偉人・哲人といわれますが、高村光雲の驕ることのない、謙虚で、清廉・高潔な人柄に接して、偉人というのは天風ではなく、光雲か、と思ったものです。それほど清清しい方です。