「本当の大人」になるための心理学 心理療法家が説く心の成熟 (集英社新書)

始めの章は世相を精神分析に基づいて斬るといった内容で、最近の大人が未成熟なのは○○力が要る／足らないから、といった話が多く人が生きていくにはこんなにもナントカ力が要るのかと嫌気がさすが、後の章になるに連れて、筆者の人生の経験や、カウンセリング体験、心理学や哲学、神学をベースにした筆者独自の理論が中心となってきて深みが出てくる。文体はクールで読んでいてほっこりするような事はないが、よく言えばバランスが取れている。所々反論はあるが、良い事も書いてあるので一読に値する本。良い点１）世相の分析。・便利すぎる世の中が人を我慢する事から遠ざけて怒りやすくさせた。・不寛容社会が完璧主義を助長させた。・ITで便利で楽になるどころか忙しくなって心の余裕がなくなった。・過度な個人主義、自己責任論、恥の文化が人々を孤立させた。良い点２）「うつ」に対して肯定的なところ。うつは大人のたしなみ。とはリリーフランキーの言葉。私はうつは本質的には病気ではなく、思春期と同じく一定の心の状態に過ぎないと思っている。（程度によっては治療が必要だが。）反論１）本文中、「○○が成熟した人間の考え方・行動」という表現がやたら多いので成熟した人間の思考・行動パターンというものに自分が当てはまるかで一喜一憂し、成熟／未成熟という言葉づらのみに囚われていく危険性がある。（最悪なのは○○ができてない自分は未成熟＝だめ人間なんだと自分を責めだす事）問題は今日、今をどう生きるべきかであり、その視点で読むべき本である。星を減らし切ってないのは、成熟／未成熟という観点を無視しても読めなくもないからだ。成熟／未成熟などと言うのは、時によって環境によって変わっていくものだと思うし、どちらかに針が振れるというものでもなく、混ざり合ってそもそもはっきりしないものだと思う。反論２）世の中を見渡せば、自分が本当にやりたい事をできている人はまれである。ましてやそれを仕事にできている人もまれである。人生の使命を見つけられないまま、分からないまま人生を終える人もいるだろう。使命をこなす人、使命を見つけられない人、使命を探そうとしない人、使命をあえて無視する人、使命を無視せざる得ない人、すべての人のその選択に、その人生に平等に幸福が有ります様に。